渡邊先生の最終講義は、まさにアトムが目指すものでした・・・・

渡邊先生の最終講義は、まさにアトムが目指してきたところのことであり、岩岡への餞の言葉のような内容で、講義が終了したときに思わず目頭が熱くなってしまいました。 以下、渡邊先生の最終講義の短くまとめてみました。

 

B.クローチェを引くまでもなく、歴史は常に現代史なのだ。

 

いま、地球、いや人類は未曾有の危機に瀕している。この10年間、人口が8億人増え、飢餓人口が1億人増えた。化石燃料の消費量や二酸化炭素の排出量も10%前後増加している。さらに、森林面積は約0.75ha(我国土の約2)減少、逆に沙漠面積は約0.6ha(我国土の約1.5)増加した。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第四次報告書によれば、このまま化石エネルギー重視型社会が続けば、100年後の地球の気温は平均2.46.4上昇するという。

 

 

建築とは、すなわち構築環境(Build Environment)である。この人工環境によって、生活の利便性が向上し、都市化が進んだ。そして、自然環境は破壊された。特に20世紀は、前半の大戦による被害を受けて、後半の都市再建とその後のスクラップ・アンド・ビルドに大量の資源とエネルギーが投入された。

 

 

人に生と死があるように、建築、都市、民族、国家にも始まりと終わりがある。何ごとにも終わりから逆に辿ると辻褄が合うという。

 

 

建築は人間の身体的機能の拡張体であり、都市は人類の文明的装置の複合体である。人口を統合し、装置が複雑になればなるほど、都市は現状を正当化する組織に担われていく。

 

生活の糧を産む方法も、狩猟、漁撈、採集、農耕、牧畜といった一次的な産業から、商業、工業、流通、情報、サービスなどの二次的、三次的な産業へと変化した。この間、火の使用によって森林が後退し、増加する人口を養うために田畑が開墾され、こうした文化の進展と技術の革新が商業や工業を興し、物質やエネルギーや情報の高度分配システムが国家の垣根を越えたグローバル社会を生み出してきた。

 

高密度で多機能な現代都市は巨大なライフラインやインフラストラクチャーに支えられ、大量の物質やエネルギーや情報を貪欲に食べ続ける。過食文明、いや飽食文明は、都市を越え、地域を越え、さらに国家を越えて、地球環境に負荷を与え続けている。消費文明の影響は、ローカルな地形改変にとどまらず、グローバルな気候改変にまで及ぶ。

 

 

このよう都市の環境は、安全で、安心で、健康で、快適であらねばならない。そのための建設エネルギーや運用エネルギーは莫大なものであり、その多くは化石燃料に依存している。近年は未利用エネルギーという名の下に、外気や河川水などの環境ポテンシャルエネルギーにも手をつけている。前者は温室効果ガスを出し、後者はヒートアイランドなど都市環境の改変をもたらす。

 

 

ヒートポンプ原理に基づく環境エネルギー利用は、一見、局所的なエントロピーを減少させるかのように見えるが、大局的には確実に入力分のエントロピーの増大となる。さらに現状は機器効率の向上とは裏腹に、全体的なシステムの整合性が不十分なため、例えば食料を冷蔵した排熱が室内を加熱し、室内を冷房した排熱が都市を暖めている始末だ。排熱を、夏から冬へ、赤道圏から北極圏へ廻すのか。

 

 

人類は多くの文明を築いてきた。建築や都市は、環境に適応するための人間の外延システムであり、人類の文明を構築するソフトでハードな社会装置である。近年の諸現象の加速拡大傾向をみると、まるでこの文明の狙いが時空間の短縮によって人間の世代時空間を膨張させることにあるのかと錯覚しそうである。果たして、我われは豊かな生活に近づいているのだろうか。都会と地方の関係も、いまや都鄙というより華夷に近い。奢れる都市は素直に地方に学び、利己的世代は地層に重なる先祖の声を聞くべきではないか。浴びる日光、吸い込む大気、流れ出る汗こそ楽しむべき価値であり、生命の根源であろう。いまこそ、未来に向けた簡素で寛容な建築と都市の展望を切り拓くときである。

 

 

人類の文明系を地球の生態系の歴史的連続体の一つとして捉え、建築や都市を文明システムの装置と位置づけて初めて、風土に根ざした省エネ建築や親環境都市や低炭素社会の構築が可能になる。気候が選ぶ環境デザイン、資源が選ぶエネルギーデザインを見直し、機能や形態や材料といった視点から建築のあり方とそこに潜む萃点(すいてん)を探ってみたい。

 

 

持続とは仇花の逆で、例え目立たなくても本来の流れに潜む方向性である。建築が文明システムに含まれ、文明が生態史観で語られるなら、建築も人間環境系として文明生態系の中にきちんと定位すべきであろう。持続建築とは、これまでの環境共生建築やサステナブル建築の概念を前提に、さらにそこで生活する人間の行動を環境的に誘導するものであり、建築の環境史観に基づく「地生えの精神」と「正統の継承」を要件とする。前者は風土から生まれ、後者は過去と未来の人間を繋ぐ。

 

 

ここに紹介する幾つかの事例がヒントになって、室内気候に関するパッシブデザインとアクティブコントロールが21世紀型持続建築の核心的コンテンツとなることを心から願っている・・・・

 

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このページは、アトム環境工学が2010年3月 9日 13:29に書いたブログ記事です。

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